【施工事例あり】食品工場のゾーニングとは?目的や重要性、ポイントも解説
食の安全に対する意識が高まる中、食品工場の衛生管理はますます厳しくなってきています。そのような中で重要な「ゾーニング」とは、工場内を衛生レベルや作業工程ごとに区分けすることで、汚染のリスクを最小限に抑える手法です。
ゾーニングを適切に行うことで、異物混入や交差汚染を防ぎ、高品質な製品を安定的に製造することができます。
本記事では、ゾーニングの基礎知識から、具体的な実施のポイントをご紹介していきます。食品工場の衛生管理に携わる方や食品製造に関わる方、食品の安全性を高めたい方はぜひ参考にしてください。
「ゾーニング」とは?
ゾーニングとは、特定の目的に応じて空間や区域を分けることを指します。この手法は、各分野で異なる意図で使われる重要な概念です。
例えば、建築分野では部屋の用途を明確にするために、マーケティングや小売業では商品の配置を最適化するために、また医療や介護分野では感染拡大を防ぐための動線確保に用いられます。
このように業界ごとに異なる意味を持ち、いずれも重要な役割を果たします。
ゾーニングの意味
前述した通り、「ゾーニング」は特定のエリアや区域を用途に応じて分けることにより、組織や施設の効率・安全性を向上させる管理手法です。
この手法の基本概念は、「ゾーン」という言葉から派生しています。現在では食品工場や医療施設をはじめとする多くの業界で採用されており、それぞれの目的に応じた空間分けで、効率的な運営や安全な環境作りを成果としてもたらしています。
食品工場におけるゾーニングの意味合い
食品工場におけるゾーニングは、衛生水準を確保するために非常に重要な要素です。エリアごとに異なる衛生基準が設定され、作業と設備が最適に配置されます。
たとえば、原材料の受け入れエリアや保管エリア、加工エリアなど作業内容に応じて区別されます。また、区分けには物理的なバリアも用意されることがあり、これにより異なる汚染レベルの施設内で混在する危険を防ぐと共に、食品の安全性を高めることができます。
これにより、工場運営の効率と安全性向上、製品品質が保たれるのです。
食品工場におけるゾーニングの目的や重要性
食品工場においてゾーニングを行うことは、製品の安全性を確保するだけでなく、効率的な運営にも欠かせないものです。
ここからは、食品工場におけるゾーニングの目的や重要性について見ていきます。
衛生管理の強化
ゾーニングの1つ目の目的は「衛生管理の強化」です。特に食品工場において衛生管理は生命線。そこでゾーニングによって異なる衛生レベルの作業スペースを明確に区別することで、異物混入や食中毒のリスクを効果的に低減することができます。
たとえば、最終的な製品の包装エリアと、原材料処理エリアが同じ空間で共存すると、洗浄されていない食材や持ち込まれた外部からのほこり等などが原因で、最終製品への汚染リスクが高まります。
そこでゾーニングを応用することで、作業エリアごとに適切な衛生基準を維持することができるのです。
リスク管理の強化
次に挙げられる目的は「リスク管理の強化」です。ゾーニングを通じて、工場内の各エリアを衛生レベルで区分けすることは、リスク管理を強化する上で極めて重要です。
交差汚染のリスクを事前に特定することで、汚染物がもたらす危険を封じ込める対策が可能となります。
たとえば、原材料から加工、包装までの移動経路を明確化することで、専用ルートの設定や消毒の実施が優先的に行われます。
作業効率の向上
ゾーニングは「作業効率の向上」にも直結します。作業エリアをはっきりと区分けることで、従業員は混乱することなく作業を進めることができるようになるのです。
また、各作業の段階やプロセスに応じてエリアを指定することで、従業員の動きはスムーズになり、時間と労力を無駄にせず済みます。
結果として、生産性の向上や業務効率化につながり、工場全体の効率的な運営が実現するのです。
品質管理の向上
異なるエリアでの作業を明確化することで、「品質管理」がより容易になります。ゾーニングを通じて、各エリアで求められる品質基準や衛生基準が明らかになり、適切な管理が施されることによって、製品の品質が確かに維持されます。
製品の一貫性や安全性のための監視と記録が念入りに行われやすくなり、全体的な品質保証体制の強化にも結びつきます。このように、ゾーニングは工場の品質管理においても欠かせない役割を果たすのです。
ゾーニングにおけるエリアの区域分け
ゾーニングは食品工場における衛生管理の基本であり、工場内を汚染のリスクに応じて区別することが重要です。
場内のゾーニングは主に「清潔区域」「準清潔区域」「準汚染区域」「汚染区域」および「サニタリー区域」に区分されており、それぞれの区域で異なる衛生基準が求められます。
それぞれの区域についてもう少し詳しく見ていきます。
清潔区域
清潔区域は食品工場内でも最も高い清潔度が求められるエリアです。ここでは製品の最終仕上げや包装が行われ、消費者に届ける直前の工程が進められます。
このため、外部からの汚染物質の侵入は許されず、製品の品質を守るために厳格な管理が行われています。
清潔区域に入るには、サニタリー区域を通過しなければならず、空気の流れも陽圧化され、汚染区域からの空気流入を防止します。
準清潔区域
準清潔区域は一定の清潔度が要求されるエリアで、主に原材料の洗浄や調理などの工程が行われます。ここでは最終の製品に影響を及ぼす可能性があるため、汚染リスクを最小限にするための管理が徹底されます。
準清潔区域は清潔区域への橋渡しの役割も果たし、そのための前室として機能し、汚染区域からの直接侵入を防ぎます。内装や設備は清掃しやすく、衛生に配慮した設計が必要です。
準汚染区域
準汚染区域は、汚染リスクが比較的高いものの、汚染区域ほど深刻ではないエリアです。主に外部から搬入された材料や物品が一時的に保管され、後にさらに清潔なゾーンへと送られる準備が行われます。
清潔区域側へその汚染物質を拡散、拡大させてはならないため、汚染防止の取り組みを継続的に実施し、清潔区域へ不要な汚染物質が持ち込まれないような対策が必要です。
汚染区域
汚染区域は工場内で最も汚染リスクの高いエリアです。ここでは外部から搬入された原材料や包装材が未洗浄で扱われるため、微生物や異物の付着リスクが高いです。
入荷室や出荷室がこの区域に含まれ、衛生管理が最も厳格に求められています。そのため、従業員の動線や物品の流れに対する徹底した管理も非常に重要です。
サニタリー区域
サニタリー区域は清潔区域に入る直前の準備を行う重要なエリアです。ここでは従業員が清潔な作業服に着替え、手や持ち物の埃をエアシャワーで除去するなどの準備を行います。
手洗いやアルコール消毒の設備も整備し、清潔区域に有害な物質を持ち込まないための堅固な対策が不可欠です。
このサニタリー区域により、食品の安全性と工場全体の衛生基準が最高水準で維持されます。
ゾーニングを実施するための手順・方法
ゾーニングは工場内での衛生管理を強化し、製品の品質と安全性を確保するための重要な手法です。そのためには、詳細な手順と方法を理解し、実行に移すことが必要不可欠。
これから紹介する手順に従って、工場内で効果的なゾーニングを実施しましょう。
作業工程の洗い出し
まず、工場内で行われているすべての作業工程を詳細に洗い出し、各工程の順序を明確に把握することが必要です。これには、原材料の受け入れから製品の出荷までの全ての工程が含まれます。
初めてゾーニングを行う際は、一つひとつの工程を丁寧に確認し、全体の流れをしっかりと理解しましょう。既にゾーニングを実施している場合でも、工程が古くなっていないか、新しい工程が追加されていないか見直すことで適切なゾーニングを維持できます。
作業工程を衛生レベルで区分
作業工程を洗い出した後は、それぞれの工程を衛生レベルに応じて色分けし、視覚的にリスクを把握しやすくします。
一般的には、汚染リスクの高いエリアを赤、中程度を黄色、低いエリアを緑といった分け方が推奨されています。
こうすることで、工場内の各エリアで必要な衛生対策が明確になり、効果的なゾーニングの実施が可能です。色分けにより、作業員にとっても視覚的に理解しやすく、日々の業務における衛生意識を高める効果があります。
作業工程に沿って区域を配置
色分けした工程に基づき、各区域を効率的かつ衛生的に工場内に配置することが求められます。作業工程の順序に従った配置を行うことで、作業員の不必要な移動を抑え、効率的な作業進行を実現可能です。
さらに、こうした配置は作業員同士や物品の移動を最小限に抑えることにもつながり、交差汚染のリスクを低減します。
できれば工場設計段階から、工場全体のフロアレイアウトを考慮し、作業工程を反映した配置計画を立てることが重要です。
区域を仕切る方法の検討
区域を配置し終えたら、各区画を効果的に仕切る方法も検討しましょう。適切に設置された仕切りは、異なる衛生レベルのエリア間での交差汚染を防ぎ、各エリアの衛生状態を維持します。
仕切りの種類や方法は、工場の作業内容や予算に応じて最適なものを選択する必要があります。物理的な壁やカーテンだけでなく、空気の流れを管理するための技術的な手法も考慮すると良いでしょう。
各区域内/区域をまたぐ際のルール決め
最後に、異なる衛生レベルの区域間における作業や移動を適切に行うための明確なルール設定も不可欠です。
例えば、各区画内での衛生管理ルールや器具、設備の使用規定、清掃や消毒の手順など、具体的な基準を設けましょう。
また、区画をまたぐ際の作業員や物品の取り扱いルールを定めることで、ゾーニングの目的である衛生管理が強化され、安全で高品質な製品の製造が可能になります。現行のルールが適切に機能しているか定期的に評価し、必要に応じて改善していくことが大切です。
ゾーニングの仕切りに適したもの
ゾーニングを効果的に実施するために、ライン、パーテーション、ビニールカーテン、ドア・隔壁といった様々な仕切り方法が用いられます。
それぞれの方法には独自の特性とメリット、デメリットがあり、工場の特性や必要な衛生レベルに応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
ここからはゾーニングの仕切りとして適した方法をご紹介していきます。
ライン
ラインを用いたゾーニングは、床や壁にテープや塗料を使用してエリアを視覚的に区分けする方法です。特に、ゾーニングのコストを抑えたい場合や、工場レイアウトの頻繁な変更に対応したい場合に有効です。
設置が簡単で、撤去や調整も容易であるため運用の柔軟性が高まります。ただし、ラインは物理的な仕切りではないため、空気中の汚染物質を防ぐことはできません。このため、厳密な衛生区分が不要なエリアでの使用が適しています。
パーテーション
パーテーションは、エリアを物理的に仕切るための簡易な壁です。可動式と固定式のものがありますが、いずれも設置が容易で低コストなため、限られた予算で効果的なゾーニングを実現したい場合に適しています。
基本的な物理的な仕切り効果を持つものの、空気中の汚染物質や微細な異物の侵入を完全には防げません。そのため、パーテーションを使用する際は、他の方法と組み合わせて使うなどの工夫が必要です。
ビニールカーテン
ビニールカーテンを使用したゾーニングは、柔軟で設置もメンテナンスも容易でありながら、一定の物理的遮断を実現します。
高い透明度のものを選べば、エリア間の視認性が向上し、安全性やコミュニケーションの向上にもつながるでしょう。
しかし、空気の流れを完全には遮断できないため、高度な衛生管理が必要なエリアには不向きです。さらに、頻繁な開閉での劣化が課題となるため、定期的なメンテナンスが欠かせません。
ドア・隔壁
ドアや隔壁は、エリア間を完全に物理的に切り離し、非常に高い衛生レベルを要求される工場環境に最適です。
汚染物質の移動を効果的に阻止し、長期間にわたり安定したゾーニングを維持できます。特に気密性の高い設計のものを用いればその効果はさらに高まります。
一方で、設置には多くの費用がかかること、設置後のレイアウト調整が難しいことがデメリットとして挙げられます。
食品工場でゾーニングを実施する際のポイント
ここからは、食品工場でゾーニングを実施する際のポイントをご紹介します。
ゾーニングは動線計画とセットで考える
ゾーニングを効果的に行うためには、動線計画と組み合わせて考えることが不可欠です。食品工場では、生産の各段階で「汚染区域」「準汚染区域」「準清潔区域」「清潔区域」といった異なるゾーンに分けることで交差汚染を防ぎます。
そして、それぞれのゾーン間で「人」「物」「空気」の動きが無駄なく管理されるよう、動線を短く直線的に設計することが必要です。
これにより、作業の無駄を省き、生産効率を向上させながら、HACCPの遵守を容易にします。
区分に応じた適切な対策で、交差汚染を阻止する
工場内での交差汚染を防ぐためには、各ゾーンに応じた具体的な対策を講じる必要があります。たとえば、清潔区域においては最も高い衛生基準が要求され、他のエリアから物理的に遮断されなければなりません。
また、ゾーン間の設備共有をなるべく避け、どうしても共有が必要な場合は、使用後の徹底的な洗浄と消毒を怠らないよう管理します。
汚染が広がるリスクを最小限に抑えられるよう、区分に応じた適切な対策が必要です。
空気の流れも意識する
空気の流れの制御も、工場の清潔さを維持する上で重要な要素です。特に、清潔度の異なる区域間での空気の流れに注意を払う必要があります。
例えば、汚染区域の空気が清潔区域に流れ込むと、交差汚染のリスクが高まります。これを防ぐため、清潔な空気が清潔度の高い区域から低い区域へ流れるよう、施設設計時にポジティブプレッシャーシステムやエアバリアを導入することが望ましいです。これにより、工場の衛生基準を高く維持できます。
サニタリー区域は生命線!衛生管理を徹底する
サニタリー区域は、前述した通り工場内の衛生レベルを維持するための重要な区域です。手洗い設備の充実やエアシャワーの設置により、作業員が持ち込む可能性のある汚染物質を効果的に除去できます。
また、清潔区域に進む前の重要なステップとしてその役割を果たすサニタリー区域は、清掃状況や衛生基準の維持も日常的に確認しましょう。
ハード面・ソフト面双方のゾーニングが不可欠
ゾーニングは物理的な区分(ハード面)と管理手法(ソフト面)の両方を考慮する必要があります。ハード面では、ゾーン間に物理的なバリアを設置し、異なるエリアへの無秩序な移動を防ぎます。
ソフト面では、作業手順や衛生管理体制、スタッフ教育が重要です。これにより、ゾーニングの目的を達成し、製造工程での安全性を維持します。従業員の衛生意識を高めるための教育や、定期的な監査もゾーニングの効果を持続させる鍵となるでしょう。
工場設計の計画段階から衛生管理を重視した工場づくりを検討する
工場の設計段階から衛生管理を考慮することは、長期的な運営上重要です。特に、2020年6月以降、HACCPによる衛生管理が義務化されたことにより、徹底した衛生管理が求められます。
建設段階でゾーニングや動線計画を細部にわたって検討することで、工場運営の効率化と製品の安全性を両立可能です。
また、設計段階で将来的な変更や設備追加に対応できる柔軟な構造を持たせることも検討すると良いでしょう。
【事例紹介】食品工場におけるゾーニングに関する施工事例
・事例①:工程ごとの衛生度に合わせたエリア分け、サニタリーを2ヵ所設けた事例
・事例②:汚染区域・準清潔区域・清潔区域に分類し床の色分けを行い、人・製品・空気の交差汚染を防止する事例
・事例③:最適な作業動線の計画やエリアごとの床の塗分けでHACCPの運用をサポートする事例
・事例④:効率を考えた動線設計+交差汚染に配慮したHACCP対応の事例
その他の事例:工場建設・工場建築のファクトリアの施工実績一覧
食品工場のゾーニングは工場設計段階から十分な検討を
食品工場のゾーニングは、食品の安全性を確保し、生産効率を最大限に引き出す上で欠かせない要素です。汚染レベルに応じた区画分け、作業動線の最適化、そして従業員への徹底した教育など、多岐にわたる対策が求められます。
しかし、ゾーニングは単に建物を区切るだけでなく、衛生管理、生産計画、さらには将来的な拡張性まで考慮した総合的な設計が必要です。そのため、工場設計の初期段階から専門家の知見を取り入れ、最適なゾーニング計画を策定することが重要です。
工場建設のトータルブランドサービスである「ファクトリア」では、長年の経験とノウハウに基づき、お客様のニーズに合わせた最適なゾーニング設計をご提案いたします。
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